2024/12/11 12:52

オンライン古着屋DANKEMAN 古着妄想小噺


古着、それは着用者の生活で生じる舐め難い辛酸も、極上の愉悦も、生々しく物語るストーリーテラー。

産まれては消える無数の人生の一時を共にした、そして共にしなかった衣類。

DANKEMANの在庫古着から、時空を超えて世界の人々の様子を、入ろうか迷う飯屋を外から窺うが如くチラ見していただければ幸いです。


※ 念のためお断りしておきますが、このストーリーは全てオンライン古着屋DANKEMAN運営チームの創作であり、登場人物や設定は完全なるフィクションです。



スウェーデンの都市 マルメ MALMÖ 在住タクシードライバー(36 女性)の場合



午前9時、さあ今日も仕事が始まるわね...タクシードライバーとしてのいつもの労働日。

今朝また新しい会社のシャツもらったんだけど、あのシャツ家に何着あるのかしら。会社のロゴ入ってるから休みの日に着たくないし、贈り物としても無理。処分のことなんてもう忘れちゃって、気づけば増え続けるこのシャツ。困るわぁ...ほんと誰が欲しがるのよこれ。



でもシャツが増えるなんてことは、胡麻粒みたいに些細なデメリット。両親アラブ系移民の私が、ここMALMÖである程度しっかりした定職に就けたのは、かなりの幸運と言ってよいでしょうね。小学校の早い段階で、スウェーデン語だけじゃなく勉強そのものを諦めた人たち、今どうしているんだろ。最近じゃ母国に帰る移民の人たちに政府から経済的な支援、それもかなりまとまった金をくれるらしいけど、ここでの生活はその金額以上の価値があるなんてこと、幼稚園児でも分かっちゃうでしょ。

MALMÖ ってけっこう若い街で、一世二世を合わせた移民率が4割くらいあるからやりやすい方ではあると思うけど、露骨な悪意をまき散らす白人がほんとに増えまくってる。ここ5年くらいかな。

先週も、アホそうなおっさんにコーヒーぶっかけられたし。コーヒーはお前らに返すぜ、とか何とかほざきやがってクソ野郎...コーヒー作ってんのはアフリカやブラジルで、シリアじゃコーヒーほとんど作ってないのよね。茶色と黒い肌の人たちが作ってるっていう理解なんだろうな。

移民が増えて治安が悪くなった、って言うけど、どこまで真実なんだろう。一部そういう人達はいるのは事実としても、白人のあんたらだって盗むし騙すし人も殺すでしょうに。

お父さんが言いすぎて刷り込まれちゃったあのセリフ、今じゃけっこう理解はできる。

「この街は、ヌテラみたいなもんだ。パッケージは白いけどふたを開ければ中身は茶色」

あのいつも着ているスウェットと、夜10時くらいっていうセットでいつでも脳内再生できちゃうんだよなあ。たぶんスウェットの色彩にセリフがBGMとしてくっ付いてるんだろう。人は視覚が8割、らしいし。

お父さん、あんな感じのスウェットいくつも持ってるけど、中東カラーでいいのかしら、H&Mからじゃ絶対に出てこない色使い。移民の我々は目立たず生きていくんだ、って言ってる割にはそこんとこは曲げないのよね。まあ、この国じゃスウェットだけで外出できる季節はそんなに長くないのが救いだわ。



気づいたらもうこの仕事、10年くらいになるのか。たまたま勉強できたから大学まで行けたけど、タクシードライバーってガンガン高卒の人も入ってくるし、大学まで出てやる仕事だったんだろうか。そしてこれからあと何年続けられるんだろうか。

特別優秀じゃない限り、大学まで行ってやっと白人の高卒と一緒のライン上。それが色んな平等を謳ってるこの国の現実、ってのはとっくに分かってて整理済みの問いかけのはずだったのに、最近またよく考えちゃうなあ。

ま、いいや。私が生きてるうちはこんな感じだろう。肌の色ってのは、今世紀中はずっと重要な要素であり続ける。

ヌテラ、切れそうだったから買って帰ろ。